2050年までに二酸化炭素の排出量を全体でゼロにする「カーボンニュートラル」の実現に向けた取り組みが、日本各地で進められている。特に中部エリアはものづくりの企業が多く、製品の製造過程で排出される二酸化炭素の削減は大きな課題となっており、先進的な取り組みに向けたご要望も多い。ある企業が描いた、地球環境にやさしい「カーボンニュートラル工場」の立ち上げ。その想いと期待は、中部電力ミライズに託された。
-
中部電力ミライズ株式会社
技術コンサルティング部門
岡崎営業本部 法人営業部大頭 雅
2007年入社 電子情報工学科
-
中部電力ミライズ株式会社
事務営業部門
岡崎営業本部 法人営業部別所 寛
2009年入社 商業学科
-
中部電力ミライズ株式会社
技術コンサルティング部門
法人営業本部 ソリューションセンター GXサービスチーム和田 愼史
2022年入社 工学部エネルギー応用科学科エネルギー専攻
-
中部電力ミライズ株式会社
技術コンサルティング部門
法人営業本部 ソリューションセンター GXサービスチーム安藤 宏樹
2021年入社 工学部機械系学科機械系専攻
プロジェクト相関図


2023年2月、中部電力ミライズ岡崎営業本部にお客さまから相談が寄せられた。それは、「新工場を設立する。ついては、工場から排出されるCO2をゼロにすることで、環境にやさしい工場およびCO2フリー製品の製造を実現したい。」というものだった。再生可能エネルギーをはじめとしたエネルギーの脱炭素化や高効率なエネルギー利用システムの構築から「環境改善とモノづくりの両立」を現実化するプロジェクトが動き出した。

どこから何をする?まったくの手探りから始まり、チームを構築
省エネによるコストダウン。社会への貢献による信頼感の醸成。社会を構成する一員としての責任。企業が脱炭素に取り組む理由はさまざまだ。しかし確実に言えることは、今後の社会において、脱炭素への取り組みなくして企業は社会から受け入れられないということだ。製造業はそのことを強く認識しており、早くから脱炭素への取り組みを重ねてきた。中部電力でも、およそ20年前からお客さまの脱炭素化を支援する事業をスタート。現状の分析や脱炭素に向けた計画の策定をおこなうコンサルティングや、エネルギー効率の高い生産技術を開発するサービスなどを提供してきた。それらのサービスに技術営業という立場から携わり、お客さまの課題解決に貢献してきた大頭をもってしても、今回の相談には不安を感じずにはいられなかったと言う。
「それまで、当社は設備や生産工程などを中心に脱炭素化を支援してきました。いわば部分的な取り組みだったのです。ところが今回のお客さまは、工場全体での脱炭素化を目指されます。初めてのことであるうえに規模が大きく、最初は何から手をつけていいかまったく思い浮かびませんでした。」
ただ、お客さまが思い描く「カーボンニュートラル工場」は、ものづくりの未来形と考えることもできる。今後、確実に進んでいくGX(グリーントランスフォーメーション)の流れの中で、カーボンニュートラル工場もいつか必ず誕生するだろう。それならば、自分たちがその先陣を切ろうというワクワク感も大頭にはあった。
「私が所属する法人営業部はお客さまにとっての窓口であり、社内の専門部署と協調して各種サービスを提案・提供し、お客さまが抱える課題を解決していく使命があります。今回の場合は、本社のソリューションセンターに相談を持ち込みました。お客さまに対して、当社の技術とノウハウを活用することでどのように課題解決に導くことができるかを議論しました。」
こうして2023年4月、大頭を統括役としたプロジェクトチームが発足。カーボンニュートラル工場の実現に向けた取り組みが始まった。
脱炭素や省エネなど、お客さまの課題は社会の課題と直結していることが多いです。お客さまに貢献することが社会に貢献することにつながるので、仕事をするうえのでやりがいや充実感も大きいです。


大頭が相談を持ちかけたソリューションセンターは、省エネや再生可能エネルギーの有効活用、効率の良い生産設備の開発など、エネルギーに関するお客さまの課題解決を支援する部署だ。そこには、入社2年目の若手技術者である和田が在籍していた。

捨てればゴミ、集めれば資源。家庭も工場も、根本の発想は同じ!?
工場で機械を動かすには電気をはじめとしたエネルギーがいる。製造過程で加熱したり冷却したりするにもエネルギーは不可欠だ。エネルギーは石油やガスなどの化石燃料に由来しているものが多い。工場を稼働させている限りはエネルギーの消費は避けることができず、それに伴って二酸化炭素の発生も避けられないと言える。そこでまず取り組むのが、省エネだ。LED電球などの小さなものから製造設備などの大型のものまで、日頃から和田たちはあの手この手でエネルギーを無駄なく使う方法を検討している。しかし、それだけでは目指すべきカーボンニュートラル工場の実現は遠かった。
「エネルギーを100%狙い通りに使うことは、実は非常に難しいです。例えば機械を動かしたとき、機械が熱くなることがあります。これは「動かす」という目的以外に、「熱する」という無駄な用途でエネルギーが使われているのです。」
用途外に使われてしまい、無駄になったエネルギー。しかし、熱もまたエネルギーの一種だ。製造工程には不必要な熱が発せられる場面もある。ならばその熱を集め、熱を必要とする工程に持っていけばいい。そうすれば無駄が無駄ではなくなる。和田たちは発想を転換した。
「工程の隅から隅まで、さらに言えば製造には直接関わらない機械まで含めて工場から発生する無駄な熱、すなわち排熱を探しました。そして、それを使える場所を探し、「何が何でも使い切る」という気持ちで排熱に用途をあてがっていきました。」
和田たちの努力はやがて、従来とは次元の異なる省エネ施策として、カーボンニュートラル工場の実現を支えることになる。
ソリューションセンターでは、お客さまの課題解決に向けて、設備や技術を自由自在に組み合わせてオリジナルのサービスを作り上げます。「自分の手で作る」というところに大きなやりがいを感じています。


今回のプロジェクトでは、お客さまから二つの要望が寄せられていた。一つは「カーボンニュートラル工場を作る」ことだ。そしてもう一つは、「工場の運転開始、さらにはその先の運用や保守まで一緒に取り組もう」というものだった。それは、中部電力ミライズでは初めての挑戦だった。

コンサルティングの枠を越え、お客さまのビジネスパートナーへ
一般的にコンサルティングは、現状の分析や課題の抽出、解決に向けた計画の立案という業務を受け持つ。高い専門性を備えてお客さまの相談に乗ってくれる存在ではあるが、計画の実施はお客さまに委ねるという側面も持つ。それに対して今回のプロジェクトでは、「提案だけでなく、工場の稼働後も中部電力ミライズと一緒になってカーボンニュートラルの実現を目指したい。」という要望がお客さまから寄せられた。その言葉を聞いた大頭は、「そこまで任せてくれるんだ、とありがたい気持ちがわき上がると同時に、しっかりと責任を果たさなければと身が引き締まる思いでした。」と振り返る。排熱利用の構想をまとめた和田も、設備メーカーや社内の関係部署との調整を担当。構想通りの工場を誕生させるべく奔走した。また、お客さまが展示会に出展する際などには資料作成にも協力。自身の役割を、技術支援だけでなく「発注者支援」へと広げていった。
提案が採用され計画の実現に向けて大頭と和田が新たなフェーズの仕事に取りかかり始めた2023年8月、三重営業本部法人営業部から安藤が和田の所属部署であるソリューションセンターに異動。プロジェクトに加わることになった。
「カーボンニュートラルという時代にマッチした取り組みであるうえに、コンサルティングだけでなく導入や運用も担当するという社内に例のない案件とあって、異動前からプロジェクトには注目していました。」と語る安藤は、社内外の調整や設備メーカーとともにおこなう技術検討などを担当することになった。
「提案のフェーズに比べて導入のフェーズでは、設備メーカーをはじめとして関わる人の数が増えます。そうなると当然、思惑がずれてしまったりすれ違ってしまうこともあります。」
一筋縄でいかない状況に対して安藤は、「耳の痛いことでも率直に相手に伝えるようにした。」と言う。
「目の前の出来事だけを見れば、私は「嫌なやつ」かもしれません。でも、いい工場を作るという大きな目標を見れば、伝えるべきことは伝えないといけません。そして、大きな目標を共有できる人は必ず、そのことをわかってくれます。率直な意見を言い合えることは、全体の仕事の質を高めます。そんな関係性の構築を心がけました。」
新たな取り組みに、誰もが興味津々。協力を惜しまない
カーボンニュートラル工場の立ち上げに加え、導入や運用も担当するという、会社にとって初めての出来事が目白押しの今回のプロジェクト。前例のないことばかりだが、安藤には安心材料があった。
「異動前の私がそうであったように、プロジェクトに対して興味を持ってくれている社員がたくさんいます。困り事があったときにそういった人に相談すると、喜んで協力してくれます。類似の経験をしたときの話を聞かせてくれたり、よく似た技術に携わった人を紹介してくれることもありました。蓄積された知見や社員同士のつながり、そして新たな取り組みに対する情熱こそ、当社の財産なんだと感じました。」
多くの社員がプロジェクトに協力や支援をしてくれていることもあって、学びと切磋琢磨できる機会に恵まれています。成長を実感しながら日々の仕事に取り組むことができています。


工場の立ち上げに向けた具体的な取り組みが始まってから約1年が経った2024年7月、お客さまとエネルギー供給に関わるより具体的なコミュニケーションを図るべく、事務職の別所がメンバーに加わった。工場の稼働予定は2026年5月。導入システムの仕様検討は佳境に入り、プロジェクトは一つの大きな節目を迎えようとしている。

新たな視点が加わり、プロジェクトはさらに力強く前進
プロジェクトのユニークさや規模の大きさは、安藤と同様に別所の耳にも届いていた。そんな中でもたらされたプロジェクト参画への知らせ。「大きな案件に関わることができ、嬉しい気持ちが大きかったです。」と振り返る。カーボンニュートラル工場の基本計画が完成間近であり、今後、設備の詳細設計や発注・施工がおこなわれる。構想が形になる期待感が大きい一方で、現実とのギャップも見つかることがあるフェーズだ。当初は想定していなかったニーズも生まれてくるだろう。
「電気、ガスを工場の稼働予定時期に併せて送り届ける、さらには新たな疑問や要望を迅速にキャッチし、社内外の各担当者へと展開していくことが私の役割です。途中から加わった者ならではの視点でプロジェクトを見つめ直し、潜在的なニーズを発掘していきたいです。」
新たなサービスがスタート。ものづくりの未来像に向けた挑戦は続く
4人のメンバーは、「今回のプロジェクトは随所に中部電力ミライズらしさが発揮されたものだ。」と口を揃える。別所が指摘するのは、地域のエネルギー会社だからこそ可能となったポイントだ。
「排熱利用に加えて、工場が利用する電気そのものも太陽光などの再生可能エネルギーを利用することで、脱炭素化を図っています。設備や生産システムだけでなく、工場に届ける電気やガスにまで踏み込んでアプローチできるのは、総合エネルギー企業である当社だからこそです。」
「安定してエネルギーを供給し続ける使命を持つ当社だからこそ、工場の稼働後までを任せてもらえた」と語る大頭は、社内体制という視点から、プロジェクトを支える中部電力ミライズらしさを指摘する。
「地域の営業本部には、私や別所のような中堅が在籍しています。そして本社のソリューションセンターには、和田や安藤のような若手技術者が在籍。中堅がお客さまと密にコミュニケーションを取りしっかりとソリューションセンターとの橋渡しをすることで、若手が伸び伸びとチャレンジをできているように思います。」
和田は、今回のプロジェクトを技術コンサルティングの取り組みの「究極形」と表現する。
「当社では約20年前から、省エネをはじめとしたお客さまへの新たな価値提供をおこなってきました。また、お客さまと一緒に生産設備や技術を開発する取り組みもおこなってきました。先輩たちの知恵やノウハウ、そして思いの結晶が、今回のプロジェクトだと言えます。」
中部電力ミライズは2024年3月、GXコンサルティングサービスの提供を開始した。このサービスの事例第1号は、他でもない今回のプロジェクトだ。プロジェクトを通して得た知見やノウハウ、そして未来への可能性が、1社に対するプロジェクトを多くの会社に対するサービスへと広く昇華させた。サービスを受け持つチームには和田と安藤が加わっている。
2026年5月、カーボンニュートラル工場が運転を開始する。大きな節目だが、ゴールではない。お客さまとともに工場を運用するという、次のゴールに向けた挑戦が始まる。そして、二つ目の事例、三つ目の事例に向けた、GXコンサルティングサービスチームの挑戦が続いていく。
自動車産業が集積する東海地方は、脱炭素に向けた取り組みの先進地でもあります。仕事で得た知識や経験を他業種や他地域に展開できることが、やりがいでありモチベーションになっています。

※掲載社員の仕事内容・所属部署は取材当時のものです。